第160回直木賞を受賞した真藤順丈の「宝島」は、戦後沖縄を舞台に「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちの20年間を描いた壮大な物語です。米軍基地から物資を盗み出し島民に配る英雄・オンちゃんの失踪から始まる謎と、残された3人の仲間たちが辿る波乱の人生。本記事では、物語の結末まで含めた完全ネタバレ解説をお届けします。
小説「宝島」のネタバレ
物語の始まり:英雄オンちゃんの失踪
1952年、米軍統治下の沖縄。「戦果アギヤー」のリーダー・オンちゃんは、嘉手納基地襲撃作戦の最中に忽然と姿を消します。この時、オンちゃんが手にした「予定にない戦果」こそが、物語全体を貫く最大の謎となります。
実はオンちゃんは、基地内の聖域「ウタキ」で米軍高官に暴行された17歳の少女が出産した赤ん坊を発見し、その命を救うために連れ出したのです。しかし米軍に追われ重傷を負い、沖縄本島の洞窟(ガマ)に隠れ住みます。赤ん坊に「ウタ」と名付けて必死に育てようとしますが、傷が癒えることなく洞窟で静かに息を引き取りました。
20年後の衝撃の真相
物語のクライマックスで、浮浪児として成長したウタの正体が明らかになります。ウタこそがオンちゃんが命がけで救い出した「予定にない戦果」だったのです。しかし1970年のコザ暴動の最中、ウタは米軍の銃弾を受けて命を落とします。グスク、レイ、ヤマコの3人は、ウタが暮らしていた洞窟でオンちゃんの白骨化した遺体を発見。20年の時を経て、ついに英雄の最期と、彼が守ろうとした命の真実が明らかになりました。
登場人物
オンちゃん
戦果アギヤーのリーダーで島の英雄。嘉手納基地襲撃時に赤ん坊(ウタ)を救出するも、その後洞窟で息を引き取る。物語全体を通じて、その不在が大きな影響を与え続ける存在。
グスク
オンちゃんの親友。戦果アギヤーから転身し琉球警察の刑事となる。米民政府の諜報員としても活動しながら、オンちゃんの行方を追い続ける。最後は探偵事務所を開業。
レイ
オンちゃんの実弟。兄の失踪後、刑務所を経てヤクザの世界に身を投じる。過激な反米活動を展開し、毒ガステロまで計画。ヤマコへの歪んだ愛情から暴行事件を起こす。
ヤマコ
オンちゃんの恋人。小学校教師となり、米軍機墜落事故で教え子を失った後、左翼活動家として本土復帰運動に参加。最後までオンちゃんを待ち続けた。
ウタ
米兵と沖縄女性の間に生まれた混血の孤児。実はオンちゃんが命がけで救った赤ん坊。言葉を知らない状態からヤマコに教育を受けて成長するも、コザ暴動で命を落とす。
ストーリー
戦果アギヤーの誕生と嘉手納基地襲撃
戦後の沖縄で、米軍基地から物資を盗み貧しい島民に配る「戦果アギヤー」が活躍していました。リーダーのオンちゃんは、1952年の嘉手納基地襲撃作戦で「予定にない戦果」を手にして失踪。密貿易団クブラのリーダー・謝花ジョーは死の間際に、この謎めいた言葉だけを残します。
三者三様の道:警察・教師・ヤクザ
オンちゃんの失踪後、グスクは警察官として米兵犯罪と向き合い、ヤマコは教師として子どもたちを守り、レイはヤクザとして裏社会を生きます。それぞれが違う立場からオンちゃんの影を追い、沖縄の現実と格闘し続けました。
コザ暴動と悲劇の結末
1970年12月20日、米兵のひき逃げ事件をきっかけにコザ暴動が勃発。レイは混乱に乗じて毒ガステロを計画し、グスクがそれを阻止しようとします。この騒動の中で、ウタは米軍に撃たれて命を落とします。
オンちゃんの真実と「予定にない戦果」の正体
ウタの死後、3人は洞窟でオンちゃんの遺体を発見。20年前、オンちゃんは基地内で出産した少女の赤ん坊を救出し、それが「予定にない戦果」だったことが判明。命と引き換えに守った赤ん坊がウタであり、3人は英雄の真の姿を知って新たな決意を胸に生きていくことを誓います。
映画「宝島」

2025年9月19日に公開予定の映画版は、大友啓史監督がメガホンを取り、妻夫木聡(グスク役)、広瀬すず(ヤマコ役)、窪田正孝(レイ役)、永山瑛太(オンちゃん役)という豪華キャストで実写化されます。
東映とソニー・ピクチャーズの共同配給により、戦後沖縄の激動の20年間を圧倒的なスケールで描く超大作として注目を集めています。原作の持つ熱量と、沖縄の歴史的背景を忠実に再現し、延べ2000人を超えるエキストラを投入したコザ暴動のシーンなど、見どころ満載の作品となっています。
まとめ
「宝島」は、戦後沖縄の苦難と希望を「戦果アギヤー」という若者たちの視点から描いた壮大な物語です。オンちゃんが命と引き換えに守った「予定にない戦果」が一人の赤ん坊だったという真相は、戦争がもたらす悲劇と、それでも失われない人間の尊厳を象徴しています。グスク、レイ、ヤマコの3人が、それぞれの道を歩みながらもオンちゃんの意志を継いで生きる姿は、沖縄が背負ってきた歴史の重みと、未来への希望を同時に描き出しています。映画化により、この感動的な物語がより多くの人々に届くことが期待されます。